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演劇におけるサブステージパフォーマンスとは?

舞台・演劇の分野におけるサブステージパフォーマンス(さぶすてーじぱふぉーまんす、Substage Performance、Performance sur sous-scene)は、舞台本体(メインステージ)以外の補助的なスペース、あるいは舞台下や舞台脇の空間で行われる演技・演出・芸術表現の総称を指します。これは観客の視線の中心から外れた位置で行われることにより、補足的・象徴的・実験的な演出効果を発揮することが特徴です。

サブステージパフォーマンスは、演劇作品の中で物語の補足的な描写や象徴的なビジュアル演出を担ったり、マルチレイヤーな演出構造の一部として組み込まれたりします。舞台の中心では展開されないが、その背景や裏側で進行する演技や動作は、観客の無意識的な理解に働きかける演出技法として、現代演劇において高く評価されています。

また、舞台構造上の「下手・上手の袖」や「舞台下(奈落)」、あるいは「花道」「客席通路」「舞台背面」など、通常の視線から外れた場所で繰り広げられる演技全般を含む場合もあります。これらは、観客に対して「見落とされるはずだったもの」「遠景としての意味」を想起させるために、あえて間接的に表現されることが多くなります。

このような手法は、特に身体表現やパフォーマンスアート、環境演劇(Environmental Theatre)などの分野で多く活用されており、演者と観客の関係性、視点、空間の意味を問い直す革新的なアプローチとされています。



サブステージパフォーマンスの起源と発展

サブステージパフォーマンスという概念の萌芽は、古典演劇における「背景としての演技」や、宗教儀式における複層的な場の使用に遡ることができます。しかしこの用語が明確に意識されるようになったのは、20世紀中盤以降の前衛演劇、特に環境演劇やパフォーマンスアートの流れを汲む実験的舞台においてです。

1960?70年代には、リチャード・シェクナーによる「パフォーマンス理論」やピーター・ブルックによる「空間の神聖性」の問い直しが行われ、舞台中央から逸脱する演出スタイルが注目されました。その結果、舞台袖・舞台下・客席などをあえて演出空間として取り込み、視覚的にも心理的にも観客を揺さぶる手法が確立されました。

このような手法は、日本の現代演劇やダンスにおいても影響を受け、平田オリザや宮本亜門の演出においても、舞台の一部ではなく周縁・補助空間を生かした表現が見受けられます。また、近年では「メタ演劇」や「複層視点演出」といった考えの中で、サブステージ的空間がドラマ構造における重要な役割を果たしています。



サブステージパフォーマンスの具体的構成と演出効果

サブステージパフォーマンスの本質は「主舞台からのズレ」にあります。それにより得られる演出効果は多様であり、以下のように整理できます:

  • 物語の裏側の表現:メインステージで進行する物語に対して、登場人物の過去や記憶、別の視点からの出来事を舞台下や別エリアで展開する。
  • 意識下・無意識下の可視化:人物の夢、幻想、心理状態を舞台の周辺空間に現出させ、観客の直感に訴える。
  • 補助的なパフォーマンスの提示:メインのシーンの背後で、無言劇、舞踊、音楽、影絵などを同時進行させ、意味の重層化を図る。
  • 意図的な「見落とし」構造の導入:観客に気づかせずに展開される動きが、後に意味を持って明かされることで、認知体験に揺さぶりを与える。
  • 舞台構造への挑戦:劇場の物理的制約を超え、袖、天井、客席、廊下などあらゆる空間を「舞台化」する。

たとえば、舞台下に配置された演者が地面から浮かび上がるように登場する場面では、「死者の声」や「過去の亡霊」といった象徴的演出が成立します。また、同時多発的に演じられるサブパフォーマンスは、観客に「何を選んで見るか」という主体性を問う装置にもなり得ます。

このような空間利用は、舞台装置・照明・音響との連携によって最大限の効果を発揮し、視覚的にも構造的にも、演劇に新たなレイヤーを加える技術といえるでしょう。



現代演劇におけるサブステージパフォーマンスの展望

現代演劇において、サブステージパフォーマンスは単なる空間の活用手法にとどまらず、演出思想や観客体験の変容と結びつく重要な表現技法となっています。

特に以下のような分野において、その意義は拡大しています:

  • 環境演劇・サイトスペシフィック演劇:空間全体を舞台とする発想の中で、主従の概念が薄れ、あらゆる演技が等価化される。
  • メタ構造の強調:劇中劇や観客を意識させる演出において、サブステージは「二重性」「対照性」の強調に用いられる。
  • VR・AR演劇:視覚の自由度が増すことで、視野の隅や背後にサブステージ的要素が配置され、没入感を高める。
  • 演劇教育・ワークショップ:生徒の創造力育成の一環として、舞台下や袖を活用した即興的な演技展開が奨励される。

また、コロナ禍以降の演劇再構築においては、「密を避けた空間活用」の一環としてサブステージの概念が再評価され、舞台の多元的運用と観客の分散的体験を実現する上で、非常に有効なアプローチとなっています。

今後は、物語構造に依存しない空間美術・パフォーマンス美術としての活用、あるいは非言語的演出を導入する場としての役割も増えていくと考えられます。



まとめ

サブステージパフォーマンスとは、舞台中心部以外の空間で行われる補助的・象徴的な演技・演出を意味し、空間の周縁や下層を積極的に表現に組み込む現代演劇のアプローチです。

この手法は、物語の多層構造、視点のずらし、観客の能動的鑑賞などを可能にし、舞台芸術の空間的・構造的な可能性を大きく拡張するものとして注目されています。

今後、テクノロジーとの融合や観客参加型演劇の普及と共に、サブステージパフォーマンスはより革新的で没入的な舞台表現の基盤として進化していくことでしょう。

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